Vol#19 私の願いは、息子と普通の会話ができる日が訪れること
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  • 執筆者の写真Rio

Vol#19 私の願いは、息子と普通の会話ができる日が訪れること

プロフィール

  • インタビュー相手:60代女性

  • インタビュー時期:2023.5

  • マルチ商法との関係:息子さんが会員(会員歴:1年程度)

  • 会社:L社→?


マルチに入ったきっかけ

2022年。大学生の息子は、突然家を飛び出してしまいました。最初は何が起きたのか分からず、混乱していました。


ある時、知人からSNSの写真を見せられました。それは、派手な格好をした息子がホテルの飲み会で乾杯している様子でした。

知人が息子をSNSで発見したそうです。

最初のTシャツ・ジーンズ姿からキラキラスーツに変わっていく息子の様子に驚きました。


そして、契約書を見つけ、彼がL社の会員になっていたことを知りました。

契約書によると、息子が会員になったのは就活がうまくいかず、悩んでいた時期でした。

そんな中、マッチングアプリを通じてとある女性と知り合いました。その女性を息子は信頼し、憧れていました。


最初はZoomでの会話程度に見えており、休み中も家にいて私とも普通に会話をしていました。家に帰って来ない日はバイトの関係だと思っていましたが、実際にはマルチのセミナーに出たり仲間の家を転々と泊まり歩いたりしていたようです。


気づいたときには既に遅かった

当時の私は、マルチ商法の恐ろしさを知る由もなく、大人に憧れている子供がじたばたしている、ただの反抗期の延長だと捉えていました。

しかし、ニュースやネットで調べるうちに、その考えが完全に誤っていたことに気付きました。が、時既に遅しでした。


息子にLINEを送っても既読されず、返事もない日々を過ごしていました。しかし、ある時、息子から「元気でやっているから安心して」とだけ返信がありました。

息子に何をしているのか尋ねましたが、明確な答えは得られませんでした。大学にも行っていなかったため、休学手続きのために一度会うことになりました。


私が「あなたがやっているのはマルチ商法だと知っているよ」と伝えると、息子は急に怒り出しました。「悪い情報しか見ていない。みんなそうなんだ。悪みたいに言うんだ」と、店の中で怒りを爆発させたのです。

私はネットの情報だけではなく、直接口で教えてほしいと伝えましたが、曖昧な答えしか返ってきませんでした。お金の面では、毎月20万円ほど稼げると言っていました。

勧誘はしていないとも話しており、今後も勧誘しないことを約束させました。


しかし、後日大学から電話があり、息子が友人に電話で勧誘していたことが問題視されていると告げられました。「この先も続くようなら休学も考えてください」と言われたのです。


そして夏頃、休学手続きを取りました。

私は息子が選んだ道だからと、無理矢理連れ戻すことはしませんでした。辛い時は帰っておいで、とだけ伝えました。


退会を決意して突然の帰宅

「借金が膨らんでどうしようもなくなった。マルチを辞めるつもりだ。」


年末頃、息子が重い荷物を抱えて帰ってきました。


家を出た後はホテル暮らししていたようですが、その間に200万円の借金を抱え込んでいました。


私が「安心した、良かった」と伝えると、息子は「自分が最も輝いていた場所をそう言うなんて許せない」と反応。

勧誘が上手くいかず、グループに迷惑をかけることを避けるために辞めるつもりだったようでした。息子にはまだ心残りがあり、勧誘者との関係は良好なままのようでした。


その後は、一緒に生活していても地獄のようでした。一緒にいる意味がわからず、毎日悩んでいました。彼が関わる人々も怪しいと聞き、息子が将来どうなってしまうのか心配でなりませんでした。


もう、息子との絆は戻ってこないのだろうか。


他の元会員の話を聞くと、辞める決意から実際に辞めるまでには時間がかかるようでしたので、できるだけ息子の行動を受け入れ、心を開いて待つように心がけました。


家族の状況

息子には年下の妹がいます。

兄がマルチに参加したことを妹にも伝え、彼を理解してあげるように伝えると、妹は分かったとの反応でした。妹はもうすぐ大学生になるため、誘惑に気をつけるようにと伝えています。


夫も私と同じくらい疲れ切っています。息子は父親のことを一目置いています。私には話しても父親には話せないこともあるようです。息子を救うために、一緒に戦い、頑張ろうと話し合っています。


息子の祖母は息子の面倒を見て、可愛がって育ててくれました。かつては親に話せないことも祖母に相談していたため、祖母には心を開いてもらえるのではと期待していました。

しかし、祖母に一緒に会いにいこうと息子に伝えると、「絶対に会いたくない。祖母に何かあっても会いには行かない」と言っていました。


外部への相談

消費生活センターへは一度話を聞いてもらいにいきました。


「息子さんを辞めさせるしかないよね、でも本人の意思でやっている以上は動けない」と言われ、どうしようもできませんでした。

それができないから相談しましたが、聞いてもらえるわけではなく、事務的な感じに捉えてしまいました。


相談できるところがない、自分で頑張るしかない、と変な方向にいってしまいました。

助けてほしいまではいかなくても、どうしたら良いのかを相談に乗っていただきたかったです。


それとは別に、夢子さんの相談サービスも利用しました。相談メールを送ると、驚くほど早く返信が届きました。その一文一文に夢子さんの思いやりが感じられ、心が軽くなりました。私が抱える想いを伝えるだけでも、とても救われました。

マルチ商法に関わった人がどのように立ち直ったのかという事例にも本当に勇気をもらいます。


いま思うこと

最近、大学退学の手続きをしました。


現在息子は、派遣の仕事をしています。派遣の仕事は一生続けることはできませんが、将来について話をすることもできません。少しずつ考える余裕ができたらいいと言われ、話をされるのも嫌な様子です。


もし息子がマルチ商法に出会わなければもっと違った人生でした。戻せるなら戻したい、以前の息子に戻ってほしいです。


息子は真面目で反抗期もなく、平和主義的な子でした。しかし、中高一貫校で最初に躓いてしまいました。上位に行きたかったと思います。大学で変えようとしたがコロナ禍でやりたいこともできなくなった。きっと、人生を変えたかったのだと思います。

希望を持ってマルチに飛び込んだのでしょう。生活も新鮮で、経験したことのない世界だったのだろうと思います。家出をしたのも、マルチ商法のグループリーダーの人たちの近くにいるためです。


しかし、苦手な勧誘行為やプレゼンに苦しむ日々。息子の部屋からは何百枚もの紙が出てきました。中には「MLM辛い」「グループに後から入ってきた人にどんどん追い抜かれていく」という内容も書かれていました。100人近い勧誘者リストには×印が続いていました。


息子は本当に頑張っていたと思います。うまくいかず、夢も希望もなくなっていったのだと思います。私は「頑張ってたじゃん」と認めていました。ですが、息子からは「お前に何が分かる。どうせ俺のことを不幸だと思っているんだろ」と言われ、心を痛めました。頑張っている、という言葉が本人にとって惨めだと感じさせてしまったのでしょう。


家に帰ってきて数か月経っても、息子の態度は相変わらずひどく、正直殺めてしまいたいという気持ちにさえなってしまいます。どうすればいいのかわかりません。


以前は、どんな状況であれ息子に家に帰ってきてほしかったです。ですが、いなかったときは息子を思い出すのはほんの少しの時間だけ。息子が家に帰ってくると、常に彼のことを考えてしまい、何も他のことが考えられなくなってしまいました。何をしても楽しくありませんし、食べ物も美味しく感じません。


先日も、息子を突き放してしまいました。「帰って来なくてもいい」と。これが正しい決断なのか、それとも息子を認めて寄り添うべきなのか、葛藤が続いています。ただ、何をしても結果は同じでした。

感情的になることは良いことではありませんが、息子とは会話もできません。ラーメン作ったらおいしい?と聞くとおいしいよと返ってきただけで会話ができたというレベルです。


マルチ商法がどのように心を支配するのか、それは普通の人々には理解しがたいものです。救われている人もいるかもしれません。


ですが、後悔していないのであればせめて幸せそうにしてほしい。自信に満ち溢れたように接してもらえれば良いです。


仮に息子がマルチを辞めると、会員との深い付き合いもなくなってしまうでしょう。地元に友人もいません。彼がまたマルチの世界に戻ってしまうのではないかと不安です。リーダー達に裏切られない限り、脱退は難しいのではと思ってしまいます。


しかし、息子を放っておくことはできません。


私の願いは、息子と普通の会話ができる日が訪れることです。ただそれだけのことを願っています。


最後に追加で伺いました

Q.マルチ会員の親族のためにどういうものがあったら良いでしょうか?

A.まず、話を聞いてくれる窓口があるだけでもありがたいと思います。自分の想いを相談に乗ってもらい、振り返ることができれば、自分の状況を整理することができるでしょう。それができれば、専門家にアドバイスを求めることも考えたいと思います。経験に基づいたアドバイスは、非常に有難いです。


Q.どういう人になら話せますか?

A.マルチ商法の元会員や、同じ境遇から立ち直った人々と話すことができると嬉しいです。辛い人同士だと辛くなってしまいます。希望を持てるような話が聞ける人が良いです。アドバイスをもらっても、無理だよと思うこともあります。ただ話を聞いてもらえるだけでも救われます。


インタビューその後

前向きに息子と接するように努めてきましたが、最近、再びお金を貸して欲しいと言われたことで疑念を抱きました。私が「計画的にお金を使っているのか」と尋ねた言葉に彼は逆ギレし、また家を出て行ってしまいました。


家を出て行った後、LINEで以下のようなメッセージが届きました。

「俺にあれこれ言わないで欲しい。マルチをやって親の言うことを聞いても幸せになれないことが分かったから、聞く耳を持てないのは当たり前だ!昔の自分より今は幸せで、親の言っていることが正しいとは思えないんだ。」


そして先日、また別のマルチ会社に入会したようなメモを見つけました。


マルチ商法から抜け出すことができない恐ろしさを改めて感じます。


自分のように悩んでいる人は多いと思うので、マルチ商法がなくなり、多くの人が悲しむことがなくなることを願っています。

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