ライオです。
映画「西湖畔に生きる」を観てきましたので感想を記載します。
(ネタバレが多くありますのでご注意ください)
自然描写が得意なグーシャオガン監督の最新作。とにかく映像がキレイです。冒頭はのどかな茶畑を始め、山水画の世界が広がります。
ところが、途中から話は急展開。何と、今回のテーマはマルチ商法なんです。このテーマを取り上げられるとは。ありがたい。
一言で言うと、「すごく丁寧な描写がされており、とてもリアル」でした。だからこそ、渦中にあるマルチ会員の親族にとっては観るとしんどくなるかもしれません。一方でマルチ商法って何が問題なの?と思う人には、一見の価値があると思います。
「西湖畔に生きる」概要
英語タイトルはDwelling by the West Lake(日本語タイトルと同様ですね)
中国タイトルは「草木人間」、ポスターもより過激です
中国茶生産地「杭州・西湖」。そのほとりに暮らす母タイホアと息子ムーリエン
夫と離婚し、茶葉農家を営みながら女手1つで息子を育てる母タイホアが、知り合いを通してマルチ商法と思われる手法で「足裏シート」を勧めるビジネスを知る
足裏シート自体の品質はそれほど高くないことを認識しながら、重要なのは「システム」と語る幹部(商品を通して勧誘する手法を広げていく手法をシステムと呼んでいると想像)
タイホアは実家を売却し、得た資金を使って大量に足裏シートを購入。見た目も大きく変わり、のめり込んでいく
イベントや少数グループを通して、なりたい自分・想いを宣言させ、周りが受け止めることでマインドコントロールを強めていく
息子ムーリエンは異常な状況に気づき辞めさせようと説得するも通じず、引いてはマルチ商法に理解を示した息子を演じて主催イベントに潜入、違法と思われる模様を録画し、証拠として警察へ提出
結果会社は違法ビジネスとして認定され破綻
現実を知った母は変わり果ててしまう
リアルだと思ったこと
非常に多くあります。
監督は親族にマルチ商法にハマった方がいるということと、イベント会場に潜入されたこともあるとのことで、シーン1つ1つの作りが非常に丁寧でした。いくつか事例を挙げておきます。
<マルチ商法・マインドコントロール>
ここは言葉で表すことが難しいです。大規模なイベント会場で参加者側から話をさせる。少人数でグループとなり、抱えている課題や思い、なりたい自分の像を語らせる。自分の大切にしたい人を列挙させ追い込んで絞らせる。本人の殻を破る様子、マインドコントロールさせていく様子が映像で見事に表現されていました。
実際私も大規模/小規模なイベントに参加したことがありますが、映画として大きく誇張されていることもなく、その通りだと思いました。
契約書を締結する際には、契約書の最後に「本人の意思で購入しました」と記載させていました。自分が決めた、というように持ち込む、よく考えられていますよね。このビジネスは。
<勧誘>
ここも絶妙な演出でした。
湖畔をタイホアとムーリエンがボートに乗っていくシーンがあるのですが、そこでタイホアは足を気にするムーリエンへ足裏シートを貼らせます。それが少し気になった船頭さんへ、箱の残りの足裏シートを全て渡し、最後に「連絡先教えて」と一言添えていました。
まずは気になった製品を渡し、別途正式に勧誘しようとする様子がまたリアルでした。
<母と息子のやり取り>
ここは、特に私のようなマルチ2世など周りの親族からすると心が痛むと思います。
足裏シートを貼るように言われ断れずに試す様子や、家に帰ると大量の足裏シートの段ボールがある様子はなんとなく想像に難くない気がします。
より踏み込んでいると思ったのは、タイホアがムーリエンにビジネスの仕組みを説明するシーン。家にはホワイトボードがあり、ビジネスの仕組みが予め描かれており、それを使って説明する。これがとてもリアルです。私の母も小さいホワイトボードにそうした仕組みを書いて説明してきたことが過去何度かありました。
あとは、息子が黙って警察に通報した際に、発狂する母と息子のやり取りも非常に生々しかった。泣いて説得しても伝わらない。
私が母に家を売却させたとき、あるいはその前後、子どもと母の間で類似した口論・泣いて説得して全く伝わらない、ということを繰り返していました。今私はその状況を越えて達観視してしまっていますが、まさに渦中にいる親族にとっては、しんどくて観れないと思います。
息子はその後警察に相談するも、「法で社会問題は解決できても人間性は変えられない」と門前払いを食らってしまう。1人の抱える課題を、本人に課題認識がない中では警察も行政機関もどうしようもない、私が活動を進める中で改めて直面している課題が描かれています。
<息子と第三者の反応の違い>
タイホアが船でのイベントに息子と、心を寄せる知人を招待したシーンがありました。ハマったタイホアを見て、危機感を覚える息子に比べて、本人が良いなら・幸せなら良いじゃないかと話す知人。これもすごくよく分かります。
親族の中ですら、課題認識には差があります。ここがとても厄介。
<潜入捜査・通報・気づいた母親の変貌>
最終的に忸怩たる思いで潜入捜査し、裏でサクラがいた事実を知るムーリエン。違法ビジネスの実態を掴み、それが証拠として提出され会社が破綻する。その事実を突きつけられた母親タイホアが抜け殻のようになってしまいます。
ここもとにかくリアル。マルチは辞めさせるのが難しい上に、万が一辞めさせられたとしても、反動がすさまじい。タイホアを気遣い続ける息子のムーリエンの演技にも心を打たれます。
会員の変貌。私はこれが怖くて、いつも母に反対することができませんでした。
その結果後戻りのできない結末になってしまった知り合いもいます。
ここは、映画の誇張でも何でもないです。マルチにハマった人はよく「私の人生そのものなの」と言います。人生そのものを失う喪失感、信じてきたものが違ったことに気づいたとき。その精神的な反動は私たちが想像する以上です。
それが肌で分かっているから、親族は身動きが取れなくなる。でもお金の無心や製品の押し付けなど、本人に閉じないからしんどいままになってしまう。
姉が絶縁したとき、私の母はショックで直後の1週間ほど記憶がなかったと言っていました(今ではケロっとしているのがそれもそれで複雑な気持ちなのですが)。
已む無しで会員にはなったがやはり辞めると伝えたとき、
マルチは嫌だ、私の口からときっぱりと言ったとき、
(絶対マルチ勧誘するから)妻には直接連絡を取るなと言ったり
家族で母を追い詰めて家を売却する決断をさせたとき、
マルチ事業者に通報してそれが母にバレたとき、
先日虚しい気持ちになると伝えたとき、
いつも、この反動を気にしていました。反動は私の祖母の負担になるかもしれない。他の親族に迷惑がかかるかもしれない。
少しずつジャブを打って、距離を取って、確かめて、その都度私の親に対する気持ちが冷めていった。
私はそこまで気にしていませんでしたが、先日インタビューを受けた際、「すごく予防線を張っているのですね」と言われました。それは長年培ってきた、自分を守るための手法なのだろうと思います。
ハマっている会員に見せたらどうか
この映画をハマっている本人に見せたらどうか、と言われているとある会員の親族の方がいました。正解はないのですが、とにかく過激なので、積極的には当然オススメできません。また、映画の中では違法ビジネスと断定されるため、会員本人が大手マルチ事業者などのビジネス形態上は違法ではないところに所属している人は遠い話に聞こえる可能性もあります。
一方で、マインドコントロールするシーンは本当にリアルで過激です。そこを見たときに、本当は何かを感じてもらいたいなと少し思います。
最後に
マルチ商法の本当の恐ろしさがあまり分かっていない人たちが知るきっかけとして、本映画がより多くの方に見てもらえると嬉しいです。
アカデミー賞もよく社会課題がテーマの映画が取り上げられますが、そうした形でもっと多くの人に届いてもらいたいなと切に思いました。(アカデミー賞受賞映画見たときすごいな、遠い世界だなと思うことも多かったですが、身近なテーマはこんなずっしり来るんだとびっくりしました)
本人にクローズアップされがちなマルチ商法の問題を、周りの人からの視点・マルチ2世の視点から描く本映画は非常に見応えがあると思います。
私の身近の映画館でも上映期間が少し延長されていると聞いています。今渦中にあるマルチ会員の親族にとってはきついと思いますが、なるべく多くの方に観てもらえると嬉しいです!
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